ボディーガードにモノ申す!



杉田さんとはいつも当たり障りの無い会話をする。
だってお隣さんだし、下手に無視するのも気まずいし踏み込んだことを聞くのもどうかと思うからだ。
でもいかんせん物静かそうな人なので私の方も話すことが無くなり、結局ネタ切れで駅に着いた頃には無言になっているというのが、いつものパターン。


駅までなんとなく一緒に行き、彼の方は職場である本屋へフラリと消えていく。
私は駅から電車に乗り、30分ほどかけて勤務先のお店へ向かうのだ。


それなりに乗客はいるが満員とまではいかない電車にガタンゴトン揺られる。
この時、もしも座席に座ることが出来ていたならまず間違いなくウトウトしてしまうことだろう。
乗り過ごさないためになるべく立つようにしている。


仕事前のルーティンとして、早番でも遅番でも必ずすること。
それは、出勤前のコーヒー。


目的の駅で電車を降りて、いの一番に目指す場所がある。
ファッションビルが立ち並ぶ通りにある、全国チェーンのカフェ。ここで絶対にコーヒーを飲んでから出勤するようにしているのだ。
ここのスタッフさんともすっかり顔馴染みになり、数人とは世間話までするようになってしまった。


空いている窓ぎわの席に座って、熱々のコーヒーをブラックで飲んでいたら。
私の隣のテーブルを拭きに来た、大学生くらいのあまり見かけない顔のスタッフが話しかけてきた。


「おはようございます。いつもありがとうございます」


新しく入ったバイトの子なのかな、と思いながらニコッと笑みを返す。


「おはようございます。最近入った人ですか?」

「はい、一昨日から。先輩たちからあなたがここの常連だって聞いたので、ぜひ仲良くなりたいなって思って声かけちゃいました」

「ありがとう。まだ仕事に慣れないと思うけど、頑張ってね」


人懐っこい笑顔と、小柄ながらガッシリした体つき。そして今風の雰囲気。キリッとした顔つきの、なかなかのイケメンだ。これは大学ではモテそうな感じだわ。
若い子に話しかけられて悪い気はしなかったので気軽に返事をしたら、彼はぺこっと頭を下げてその場からいなくなった。