「本当に弱い女なら話は別だよ。実際、男よりも力は無いし、そういう面では男に太刀打ちできないから。俺はただ、弱い女を気取ってる奴が嫌なだけ」

「なによそれ……」


偶然とは言え壁ドンされて、一瞬でも「ドックン!」とか心臓が鳴ってしまった30分前の自分を呪いたい。抹消したい。
本当の女の敵はここにいる!


「私が弱い女の振りをしてるとでも言いたいわけ?」

「そう見えたけど、違う?」


しれっと答えた真山は、斜にかまえた態度のまま目を細めた。


「ま、ギブアンドテイクってことでいいんだけどね。そういう客がいるからこそ俺も警護することで金もらってメシを食べれてるし」

「あんたねぇ、黙ってればペラペラと……」


大きく息を吸い込んで、ケンカでも吹っかけてやろうとしたのに。
それをヤツは拒否するかのように、左の手のひらをまっすぐに私の目の前に出してきた。


「いい。君の話は聞かなくても言いたいことは大体分かる。そういうことで、さっき言った君のクセ、少し改善した方がいいと思うよ。じゃあね」


ポツーンとその場に立ち尽くす、私。
耳にはタンタンタン、と階段を降りていく真山の靴音。


━━━━━え、なに?
私って弱い女の仮面でもかぶってたの?
そんな風に見えたの?
怒りを通り越して呆れ返った。


そりゃ私だって、襲われた時に抵抗したかったよ。
大声上げたかったよ。
股間を蹴り上げて、みぞおちにアッパー食らわせて、アイアンクローかまして、アゴをクラッシュして………………以下省略。
とにかく報復したかったよ。


でも、それが出来ないくらい怖かったのに。
信じられない、真山武。


明日からもあんな最低な男に守られなくちゃいけないということが、気が重くてならなかった。