「今日はありがとうございました。明日は遅番ですので、よろしくお願いします」

「かしこまりました」


綺麗な角度で頭を下げる真山に会釈し、部屋に入ろうとした時。
ヤツの本性が姿を現した。


「あのさ、オヤジ女子さん」

「…………………………へ?」


急にさっきと声色が変わったので、違う人でもいるのかと思った。
目をパチクリさせる私に、ヤツは別人のような意地悪そうな笑みを貼り付けて人差し指を突きつけてきた。


「君は歩く時、必ずぼんやり空を眺めながら歩くクセがある。隙を作りやすいから気をつけないと襲われやすくなるよ」

「……………………え?」

「それと、人と話す時。相手の目を見つめすぎる傾向にあるな。職業柄そうなるんだろうけど、あれは一歩間違うと男は勘違いするから気をつけなよ」

「…………え?え?……ねぇ、ちょっと」


戸惑いと混乱が頭を応酬してくるものの、どうにか踏ん張って対抗する。
偉そうな態度で忠告してくる男に、頭を抱えそうな勢いで尋ねた。


「私、襲われたことなんてあなたに一言も言ってないわよね?ど、どうして知って………………」

「女性が個人で警護を頼む場合、理由はみんなほとんど君と同じものだ。変質者や不審者に襲われて、身の危険を感じた人」


真山は2階通路の柵に寄りかかり、私の驚いた表情を楽しむように笑っていた。


「君みたいに気が強そうな子なら、自分で撃退しそうなものだけどね。意外とそういうのは出来ない小心者なわけだ」

「しょ、小心者!?酷い!そんなこと思いながら仕事してるの?」

「どう思ったって勝手でしょ。仕事はちゃんとやってるんだから」


真山武という男、どうやら本気で二重人格らしい。
しかも女の子を敵に回しそうなことを平気でポンポン言ってくる。許せない。