ボディーガードにモノ申す!



朝、と言っても時刻は8時半。
一般的な通勤ラッシュは少し落ち着いたかなという時間帯に、いつも家を出る。
シフトが早番の時は、たいていこの時間に出るとちょうどよく9時半あたりに職場であるお店に到着するのだ。


早番の日、ほとんどの確率で会う人がいる。


「あ、おはようございます」


ストラップ付きのエナメルパンプスを履いた私が家を出ると、ちょうど同じタイミングで隣の部屋から男性が出てきて声をかけてきた。
彼は私の部屋の隣人で、名前は杉田さん。下の名前までは知らない。
早番の日には必ずと言っていいほど彼に遭遇する。
そのたびに彼の方から声をかけてくれるのだ。


「おはようございます」


私も微笑んで挨拶を返すと、杉田さんは少し嬉しそうにはにかんだ。


彼は丸いフレームのメガネをかけていて、身長もけっこう高い。年齢は私よりも5歳くらい上だろうか。
体型は中肉中背で、やや猫背。
清潔そうなアイロンをしっかりかけたシャツをビッチリと着て、それをインディゴデニムにインしている。
バッグは決まって明るいブラウンの本革のトート。靴はコンバースのスニーカー。
そのファッションはいつ見ても似たような感じで、彼の真面目な人柄が伺えるようなものだった。


以前、世間話をした時にチラリと聞いたのだけれど、駅前の本屋で働いているらしい。
確かに本屋にいそうな雰囲気を持っている。


「広瀬さん、今日は早番なんですね」


必然的に並んで歩くことになり、たどたどしい口調で杉田さんに話しかけられる。
あまり女性慣れしていない感じのする話し方だ。


「早番だと帰りにコンビニとかスーパーでお弁当が選び放題なので、こっちの方が嬉しいんですよ〜」


うっかり「私は自炊せずお弁当ばかり買ってます」宣言をしてしまったような感じになり、やっちまったと頭を抱えそうになる。そんな私には気づかない様子で、彼は「分かります」と同調してくれた。


「僕もよくコンビニ弁当買いますけど、ピーク過ぎてから行くと食べたいものは大体売り切れちゃってますもんね」

「そうそう!牛丼食べたかったのに親子丼しか残ってなかったり!キムチ食べたかったのに卵焼きしか残ってなかったり!」

「あはは、分かります〜」