広瀬椿、28歳になったばかり。
ヘアアレンジがしやすいからと伸ばしたロングヘアーだけが、唯一女らしいところ。


周りの友達がだんだん結婚していく中で、特に焦ることもなく仕事に打ち込む日々を過ごしている。


恋人などいなくても、人間は生きていける。
お給料をもらい、その中で生活をやりくりして貯金をして、休日には買い物をしたり友達と飲みに行ったり。
十分すぎるほど、私は自分の生活に満足していた。


清恵はそんな私を危惧して、最近は口うるさく「そろそろ本気出せ!」とか「合コン行くわよ!」とか、そんなことばかりを言ってくるようになった。
彼女にはすでに交際期間2年になる彼氏が存在しており、正真正銘のリア充だ。


「富夫くんも、椿が独り身なんてもったいないって言ってたわよ。見た目も綺麗だし、服だっていっつもオシャレだし、メイクもヘアスタイルも流行を取り入れてるし。一体何がいけないのかって」


富夫というちょっと古風な名前の清恵の彼氏が、まさか私のことをそんな風に言ってくれているとはつゆ知らず。
ありがたいけど、何がいけないのかと問われるとそこまで来たら中身がいけないとしか言いようがない。


私の仕事はアパレル業で、セレクトショップの販売員をやっている。
社員であれば半額で服を購入出来るし、毎月ファッション雑誌には目を通すので自ずと流行には敏感になる。
そこそこオシャレに気を遣わないといけない仕事なのだ。


「富夫くんに言っておいて。中身が残念だって」


あははと笑って言うと、清恵が不満たっぷりの表情で眉を寄せた。


「そういう所よ、椿の干物っぷり。いま適当に言ったでしょ」

「え……、だって仕方ないじゃない。何がいけないのかって聞かれたらもう中身しか残ってないでしょ?」

「出会いが無いとか、仕事が忙しいとか、いくらでも言い訳なんて出来るわよ」

「面倒くさっ。理由なんてどうでもいいわよ、考えたって彼氏がいないのは事実なんだし。てゆーか、いなくても楽しいし」

「ほら、そういう所!」

「もうっ、うるさーーーい!」


清恵の揚げ足取りにうんざりして、私はジョッキに入ったビールをグビッと豪快に飲み干した。