テレビ画面では、仕事帰りにバスから降りてアパートに向かうエミリが後をつけてくる男の存在に気づいて小走りになっている。


「エミリっ!もっと本気で走らんかい!そんなんじゃ追いつかれるわよっ」

「なんでこんな時にヒール履いてるのよっ」

「逃げるよりも大声出しちゃいなさいっ!」


薄型テレビに向かって、立て続けにツッコミのような言葉を浴びせる。
しつこいようですが、全て私の独り言である。


『ハァハァ、…………もうやだっ!誰なのっ!?』


エミリが白いワンピースを翻して、意を決したように後ろを振り返る。
立ち止まる男。
彼の顔を見て、エミリは顔色を変えた。


『あ……、あなた……、前にハンカチを拾った…………』

『そうだよ、エミリちゃん。やっと気づいてくれたんだね』


中年の男性は薄気味悪くニタリと笑い、ジリジリとエミリに近づく。
アパートに向かっていたはずなのに、何故か誰もいない夜の公園に場所が移っている。色々とクレームをつけたいところだが、今は黙る。


『や、やめてっ!来ないでっ!』


持っていたバッグをブンブン振り回すエミリ。
それをいとも簡単に奪い取り、男は遠くにぶん投げた。
と、同時にガバッとエミリに抱きつく。


「きゃああっ!エミリっ!早く股間に蹴りを入れてええええ!」


私の野次も飛ぶ。


『やめてっ!お願いだからやめて下さいっ……』

『君だって僕のことをいやらしい目で見てたじゃないか。僕たちは両想いだ』

『違いますっ!そんなの勘違いですっ!』


公園のフェンスに押し付けられたエミリが泣きながら抵抗するも、男の力によって腕は拘束されて身動きが取れない。
そうこうしているうちに男は無理やりキスしようと顔を近づけた。


「エミリ〜っ!頭突きしろ〜っ!」


また私の野次が飛んだ。