力を無くした私を見下ろしながら、真山は確認するように問いかけてきた。
「夜に1人で出歩くなと言っただろ?」
「どうしても買いたいものがあって……」
「忠告意味なし。防犯ブザーは?」
「バ、バ、バッグの中に……」
「意味なし。和代さんに護身術教わらなかったのか?」
「あ……正面から襲われた時の対処法は教えてもらってないや……」
「意味なし」
真山に言い返す元気もなく、しょんぼりと肩を落とす。
ヤツは片手で貝山くんを締め上げた状態で、もう一方の空いてる方の手で携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
「もしもし、コタロー?非番の日に悪いんだけど、今から出てこれないか。広瀬椿を襲った男を捕まえた。現行犯だ」
彼の電話している姿を見て、そうか、とぼんやり思った。
警察官である三上くんに連絡してくれてるんだ…………。
電話を終えた真山は痛がっている貝山くんをじろじろと眺め、「バカだな」と笑っていた。
「ストーカーくん、君、女見る目無いな。こいつは正真正銘のオヤジ化した干物女だぞ。外見に惑わされるな」
「そ、そんな……嘘だ……」
貝山くんは事実を受け入れたくないのか、ひたすら首を振っていた。
オヤジ化した干物女という最低の言われようなのに、怒る気がしない私も私だけれど。
「ま、真山……さん」
少しだけ落ち着いてきて、よろよろと立ち上がった私は真山に頭を下げた。
「すみませんでした……ありがとうございます。護身術も……うまく使えなくてごめんなさい。自分の身は自分で守りたかったんですけど……」
「もうその必要は無い」
「…………え?」
思ってもみなかった返答に戸惑っていると、彼は当然のように言葉を続けた。
「君のことは俺が守る。だから別にいい」
……結局、三上くんが現場に到着するまで、真山の言葉の意味はよく分からないままだった。