「見え透いた嘘までついて、人を試すようなことをして何が楽しいんですか。あなたを本当に愛してるのは俺だけです。大丈夫、心配ありません。さぁ、来てください……」


逆効果だったのか、貝山くんが悲しい表情をしたのはその時だけ。
すぐに気味の悪い笑顔になり、私に抱きつこうと正面から両手を広げてきた。


防犯ブザーがダメなら叫ぶしかない!
……はずなのに。


以前襲われた時みたいに、悲鳴を上げるどころか声も出せない。
恐怖心が体を支配しているみたいに言うことを聞いてくれないのだ。


誰か、助けて!
真山!


ギュッと目をつぶって、体を強ばらせた。


次の瞬間、貝山くんの声。


「イデッ!イデデデデデデ!!」


え、なに?
ビックリして目を開いて顔を上げると、真山が貝山くんの腕を後ろから捻って締め上げているところだった。


ポカンと口を開けたままの私に、とてつもなく不機嫌そうな真山が呆れたような口調で


「学習能力無しだな、君は」


とため息をつく。


途端に腰が抜けてその場にドサッと崩れた。
おそらく私は間抜け面をしていることだろう。