帰り際、和代さんが思い出したようにバッグから1冊の雑誌を取り出した。


「そうだ、これ。タケルくんからあなたに渡して欲しいって頼まれてたのよ」


差し出された雑誌の表紙を見て、私は吹き出してしまった。
それは杉田さんに会いに行った時に買った雑誌だ。
タイトルは『今すぐ出来る!一人暮らしのお部屋改革!断捨離のプロにあなたもなれる!』


汚部屋に住む私のために買ってくれたらしい。


パラパラと雑誌を開いて中に目を通していたら、和代さんがキョロキョロと私の部屋を見回して首をかしげた。


「タケルくんに聞いてた話と違うのよねぇ。整理整頓がなってない散らかった部屋って聞いてたんだけど。小綺麗な普通の若い女の子の部屋って感じよね〜」

「ふふ、そうでしょう?真山さんにバカにされたくなくて、1人で頑張って片付けたんですよ」

「へぇ、すごいじゃない!」

「真山さんはもう来ることが無いだろうから、意味の無いことでしたけどね……」


自然に寂しそうな口調になってしまって、ハッと我に返って和代さんを見つめる。
彼女は優しげな微笑みとともに母のような目で私を見ていた。


「椿ちゃんったら、そうなのね。タケルくんのこと好きなのね。今回のことはある意味素敵な出会いだったってことじゃない。いいことだわ」


普段なら、ここで即座に否定していたはずだけど。
真山本人がいるわけでもないし、半ば投げやりにうなずいた。


「いなくなってから気づくってけっこうイタいパターンですよね」

「そんなことないわよ」

「いいんです、もう。素直になれなかった私が悪いので」


和代さんが何かを言いたげにしているのは分かっていたけれど、私はそれを首を振って制した。







この微妙な恋は、始まる前に終わってしまった。
気づいた頃にはもう彼はいなかった。


でも、傷つくよりは何倍もマシな気がして。
これでいいか、と諦めがついた。


自分の身は自分で守る。
それが私には一番似合っているから。
だから、これでいいんだと言い聞かせた。