「とにかく、迷っちゃダメ。思い切りやらないと、隙をついて力で封じ込まれちゃうから。相手の足を踏み付けるのも、ピンヒールだったら悶絶モノよ?」

「確かに……。ヒールのある靴は履いちゃいけないと思ってたけど、そういう意味では効果あるから履いてもいいんですね」


目からウロコの和代さんの話で感動していたら、彼女は当然のごとく私の肩をポンポンと叩いてきた。


「わざわざローヒールの靴ばかり履かなくても大丈夫よ。好きな服着なさい。変態のために自分を抑えるなんて悔しいじゃない。…………ってタケルくんに聞いたんだけどね」

「え?真山さんに?」

「うん。あなたの警護についてから、毎日ヒールのない靴ばかり履いてるから気になったみたいよ。玄関にはヒールの高いものが多く並んでいたのに、実際はあまり履いてなかったからタケルくんも不思議だったのね、きっと」


ちょっと前まで散らかっていた私の部屋で、しかも玄関の靴までしっかり見られていとは。恥ずかしい。


でも案外彼は私の生活のことまで見ていたのだということが分かった。





「こんな護身術、使う日が来なければいいわね」


簡単な護身術を教えてもらい、出したコーヒーを飲んで一服した和代さんが実感を込めてつぶやいた。
私も、彼女と同じように思っていた。


もう何事も起きなければいい、と。