柔らかい感触を感じて、ドクンと胸が鳴る。
これは、これは、一体どんな状況?


驚きすぎて、その場に固まって動けなくなった私から顔を離した真山は、非常に満足そうな笑みを浮かべていた。


「俺がこういうことをしたくなるということは、君はオヤジではなくオヤジ女子ってことだ。分かったかな?」


分かりません。
ちっとも分かりません。
答えたいのに声が出ません。動揺のし過ぎで。


「そうそう、その顔が見たかった。ハニワみたいな顔してるよ、今」


いやいや、あなた自分が何をしたのか分かってます?


ドアに背をつけたまま言葉が出てこない私に、真山はニッコリと笑って余裕を見せてきた。
いや、見せつけてきたと言った方が正しいかもしれない。
しかしその笑顔がフッと消えて、真剣なものに変化した。


「君を襲った人物は、俺が調べる。君はいつも通りに過ごせばいい。余計なことはするな。いいな?」

「し、調べるって……どうやって……」

「心配はいらない」

「心配はしてないけど」

「減らず口を叩けるようなら大丈夫だな」


ポンと私の頭に手を乗せた真山は何事も無かったかのようにドアから私を剥がし、そしてこちらは振り向かずに


「困らせて悪かったな」


とつぶやき、部屋から静かに出ていってしまった。





何がなんだか分からないまま、私はその場に呆然としていた。
困らせるどころか、あんなギリギリのキスは契約違反でしょ。


というか、中途半端なことしないでキスするなら唇にしてよ、と思う微妙な乙女心を恥ずかしく思ってしまうのだった。