勝手にガールズトークを盗み聞きして、しかもなんと失礼な発言をしたのか!
どっちの男がさっきの「単なるオヤジじゃん」と言ったのか、一目瞭然。
ニヤニヤしているその男に違いない。
そこそこ身長は高いので、スーツは似合っている。歳は私よりもいくらか上か?
醤油顔というか塩顔というか、黙っていれば雰囲気だけはそれなりに素敵かもしれない。
だがしかし、こいつは胡散臭い。
女を見下して笑うタイプだ、間違いない。
現に私を笑ったじゃないか。
私が鬼のような形相で睨みつけたからか、ニヤついていた男は「失礼」と目を細めた。
全然失礼とか思ってない物言いで、そこにも腹が立つ。
「でも別に聞きたくて聞いてたんじゃないよ。君の声が大きくて、嫌でも耳に入ってきたんだ。なぁ、コタロー?」
「やめろよ、タケル」
コタローと呼ばれた男は、相変わらず困り顔でオロオロしている。
非常に人の良さそうな優しそうな容姿をしていて、タケルという男よりは少し身長は低いもののわりと体格はいい。
彼はいいとして、問題はタケルって奴だ。
ヤツは相変わらずこちらをイライラさせるような笑みを浮かべている。
「そんなに聞かれるのが嫌なら、こんな場所で話さないことだな。俺だったら君みたいなオヤジはごめんだね」
「あんたのようなデリカシーの無い男はモテないわよ。合コンに来ても一発で見破られて誰も相手にしないタイプ」
「おい、オヤジ。勝手に決めるなよ」
プイッと顔を背けて無視してやりたいのに、「オヤジ」呼ばわりされたことにまたカチンと来る。
なんなの、こいつ。
人をいら立たせる天才か?
ムカついて舌打ちしていたら、目の前の佳織ちゃんがおずおずと上目遣いで片手を挙手した。
「あのー、お2人で飲んでるんですか?もしよかったら4人で飲みませんか?」
「お、いいねー!ほら、こういう若い子は分かってるんだよな」
「佳織ちゃんっ!ダメよ!帰るわよ!」
勝ち誇ったような顔をして鼻で笑ったそいつを再度睨んで、私は飲みかけのビールもそのままに佳織ちゃんの腕を引っ張った。
「きゃあっ」という可愛らしい悲鳴を上げつつも、彼女は素直に私に従ってついてくる。
背後で申し訳なさそうな「気を悪くさせてごめんねぇ〜」と言うコタローと呼ばれていた男の声が聞こえた。



