電車に乗って、30分。
見慣れた駅に降り立ち、私は改札に向かいながら何度も真山に確認する。
「あのさ、本気なの?杉田さんに会うって……」
「こんな時に嘘言ってどうする」
「でももう帰ったかもしれないし」
「それなら後日また来ればいい」
「仕事中だとしたら余計に迷惑かけるかもしれないし」
「謝ればいい」
「…………今日は言葉遣いが違うのね」
一応、警護している最中なので、彼は私の半歩後ろにいる。
だけど真山は作ったような優しい笑顔を浮かべることもなく、素の真山武がそこにいるような印象を受けた。
私がそれを言うまで、本人には自覚が無かったらしい。
あれ、とつぶやいて首をかしげていた。
「気づきませんでした。申し訳ありません」
「もうっ、今さらいいわよ。あんたの本性は分かってるしさ」
「それはお互い様だろ?」
2人でぼそぼそ言い合いながら、結局杉田さんの職場である駅前の本屋まで来てしまった。
杉田さんは隣人であることは間違いないけれど、今までこれと言って深く関わったことなどない。
シンガーソングライターの大谷ドミソの大ファンであるという共通点を知る前までは、当たり障りのない話しかしてこなかった人。
先ほどの貝山くん同様、何も怪しいところなど思いつかないのだ。



