「彼の第一印象が怪しいと感じましたので、念のため予防線を張っておきました。案外、身近に敵は潜んでるものですよ」
「……敵って……、貝山くんが?怪しいってどこが?」
なんの問題も無さそうな、いかにも優しそうで爽やかで、大学ではモテるであろう貝山くんが何故に怪しいと?
「広瀬さんを見つけた時の彼の驚いた顔。あまりにも驚きすぎだと思わなかった?」
「だってカフェ以外で会うことなんて無いんだもの。私だってビックリしたわよ」
「君は気づいてないようだけど、彼はかなり慌てているように見えた」
「なんでもかんでも疑わないでよ!」
「…………他には、いるのか?」
「何が?」
いきなり始まった真山の尋問に、私は戸惑いながら眉をしかめる。あらぬ疑いをかけることになった貝山くんにも申し訳ない。
真山は構うことなく、続けた。
「君が関わる男について聞いてるんだ」
「関わる男って言われても……」
「いないのか?君の周りでよく見かける男の顔を思い浮かべてみろ。さっきの男以外にもいないか?」
「えーっと……職場の店長の橋浦さんは、仕事でほぼ毎回顔を合わせてるでしょ。それからあとは……………………、あ!」
うーん、と頭を悩ませて、ようやくたどり着いた1人の男性の姿。
ハッとした顔になった私に、真山が畳み掛けてきた。
「あとは?」
「あとは……、隣の部屋の杉田さん……かな。アパートの最寄り駅の本屋に勤めてる人なんだけど……。でもまさか、ねぇ」
「その本屋、行ってみるか」
「……は!?何言ってるの!?」
すっかり事務的な口調など捨て去り、紳士的な態度など消え去り、優しい笑顔などどこにも無く。
真山はいつもの彼になり、私にニヤリと笑いかけてきた。
杉田さんにも、会いに行くつもりらしい。
猛烈に嫌な予感がした。



