「黒田くん!!!」
ベッドで座ってる岡本がそういう。
いつもの感じとは違い、2つに分けて下の方で縛ってる髪は降ろされていた。
「お前…なんで入院してんだよ!」
と少し大きめの声で言う俺。
「シッ!ここ病院だよ?もう少し小さい声で話してよ〜」
「だってお前…」
「食中毒!」
「はぁ?」
「夏の時期は気をつけなきゃね〜〜」
「もう大丈夫なのかよ」
「うん!平気!おとといまできつかった!もう退院できるよ!っていうか、学校は?!」
「バカ、それどころじゃねーよ。心配したんだぞ!あ、相沢も小池も…俺が代表で来てやった」
「あ、そっか。病室では携帯使えないからさ〜〜電源切っちゃってて。みんな大げさだよ〜」
「ったく」
心配させやがって。
ガラッ
岡本と話してると、突然部屋のドアが開き40代くらいの女性が入ってきた。
「あら?こんにちは」
「あ、どうも…黒田です。岡本のクラスメイトで…」
「あらー!!!!あなたが黒田くん!?」
女の人はいきなり俺の手をとって目をキラキラさせてくる。
なんだ?!
「うちのママだよ」
と笑いながらいう岡本。
岡本の母親?!
いきなり緊張しだす俺。
「あ、あの、岡本には、その、いつもその…」
「黒田くん、何かしこまってんの〜?いつもは私のこと、バカとかアホとか言うくせに」
‼︎
そういう岡本に慌ててしまう。
なんで、今、そんなこと言うんだ…。
「あら…」
岡本のお母さんが険しい顔をする。
やばい。
女子にそんなこと言う男、最低だよな…
今更反省する。
「いや、コミュニケーションの1つとして…」
「冗談よ!黒田くん、いい子ね!」
と岡本のお母さん。
「幸、黒田くんに会ってからすごく楽しそうで、黒田くんがいてくれて本当に良かったって思ってるの。家にいてもずっと黒田くんの話しかしないのよ?」
え。
そうなのか?
「もーやめてよ、ママ!」
「はいはい。じゃー、2人でゆっくりしてて、邪魔者は退散しまーす」
岡本のお母さんはそう言って、病室を出て行った。
「なんか飲む?お茶くらいなら冷蔵庫に入ってたよ」
と岡本。
「いや、いい。それより、学校はいつからいけるようになるんだ?」
「もー!そんな心配しないでよ」
「別にしてねーよ」
「ふーん。来週には行けると思う。舞ちゃん達にも心配かけてごめんって言っておいてくれる?あと、学級委員の仕事、任せることになるかも。学園祭の出し物決めとか」
「んなことすんのかよ!聞いてねーよ!」
「登校日なにしに学校行ったわけ?慌てて先生に電話して話の内容聞き出して良かったわ」
良かった。
機嫌なおってる。
元気だし。
いつもの岡本だ。
「みんな大げさだよね〜〜」
「食中毒ってあぶねーだろ。全然大げさじゃねーよ」
「…黒田くん」
「ん?」
「…私、嬉しかったよ」
「え?」
「好きだって言ってくれて」
「あ、あぁー」
「ただ、相手が誰でも、今はそういうのいいかーって思ってて。恋愛とか」
「なんで」
「学級委員長はクラスのこと考えなくちゃ!」
「誰もそこまで求めてねーだろ」
「私がやりたいの!だから、それでも、今まで通り、仲良くしてね!」
その時の岡本の笑顔がなんとなく引きつっていたことを、どうして俺は気付かなかったんだろうと思う。



