「あの時の私達は、久しぶりに貴方に会えると思って期待し過ぎて舞い上がってたの。家に帰って、詩織が私達を見つけた時、『誰ですか?』って。詩織が言ったの。」
「うそ……」
「本当よ。舞い上がってた分、余計に私達はショックを受けてね?何も言えなかったわ。貴方を育てられる自信が無くなってしまったの。弱い親でごめんなさい。それから、私達は仕事を理由に家に帰らなくなったわ。でもね、貴方の成長の証は全部ベビーシッターから聞いてる。」
「詩織が幼稚園に入園した。友達が初めて出来た。どこに出掛けた。見ては居ないけど、ほとんど知っているわ。報告だけで私達は満足してしまったの。詩織に会わなくても詩織の事を知れる。また、あの時みたいに誰?なんて聞かれたくなかった。怖かったの。」
お母さんはついに、溜めていた涙を流した。
「じゃあ、なんで10歳の誕生日。家に帰ってきてくれたの?」
「ちょうど、キリが良いと思ったの。詩織も私達の存在をお手伝いの田中さんに聞いて知ってたでしょん自分で私達の事について調べてたのも聞いているわ。だから、自立して来た頃だしあの時みたいな事を聞かれる心配もないし、会っても良いと思ったの。」
「涼は?どうして涼を私に会わせたの?」
「涼君は横島の息子で信頼出来るわ。詩織になんかあったら心配でしょ?だから涼君を貴方のお目付役にしたの。」
「そう、だったんだ……」
「だけどね、いざ成長した貴方に会ってみるとすごい緊張したわ。やっぱり長年会わなかった溝は思ってた以上に深かったの。詩織との距離を感じて、それにもショックを受けてしまったわ。親なのに、何を話せばいいか分からなかった。親失格よね……だから、詩織には会わない方が良いと思ったの。私達が居なくても田中さん一人で充分だと、思ってしまったの。ごめんなさい……だから、決して愛してないわけじゃないの。愛してる余りに分からなくなってしまったの。」
お母さんは、話を終えて私に頭を下げて謝る。
お父さんも、申し訳なさそうに眉を下げて
「すまなかった。詩織」
頭を下げた。


