ゴツゴツとした
男っぽい手が


涙で濡れる私の目を押さえて

視界を塞ぐ。






…その時にした香りが

また私に 存在を気づかせる。








「…っ……か、なめ…。」

「……見んな。見なくていい。」







静かに私にそう告げる、

どこか少し苦しそうな声を
私は久しぶりに聞いた。




…知ってる、この香り。



さっきもぶつかった時にした
要の香り。




香りで誰かわかるなんて

私の嗅覚も、犬並みかもしれない。







(もう1ヶ月も前にした話だけど…。)







きっとこんな会話をしたのを

覚えてるのは私だけ。






そんなことを考えて
また切なく胸が締め付けられるのを感じながら


私はそっと、視界を塞いでいる
要の手に触れた。







「っ…沙織…?」

「…ごめん、ごめんね要…っ。」








(もう少し…もう少しだけ…)







あなたの そばにいたい。