「……香川洸」


「……」


静寂の中、それでも聞き逃してしまいそうな小さな声を拾い上げる。


なに、とでも問いたげな表情をしていたのかもしれない。


一つため息を漏らして、私を見据える瞳にどきりと胸が疼いた。


決して、さっきみたいに不自然に軋んだわけじゃない。



「俺の名前。香川洸、1年。……お前は」


セーブをかけてたはずなのに。


まるでそうしないといけないと命じられるように、悩むまでもなく、答えていた。


「…2年。藍名、媛華…」



嫌いかと聞かれれば答えかねる。


けど嫌気こそ差すし、好きになんてなれるわけもない自分の名前。


ここまで躊躇なく、すらすらと言えたのはいつぶりかも知れない。



「先輩……」


「……敬う気にでもなった?」


気分を無理やり持ち上げようと、戯けてみた。


悩む仕草を見せた後、小さく笑って彼は言う。