「その彼氏が、暴力を振るうようになった」


「なっ……じゃあ、ほのかちゃんが時々触られるのに、怯えてたのはっ…まさか…」


まるで、渚くんの方が辛そうに声を震わせる。


「そんな生活が何年も続いたせいで、あたしもお母さんもきっと、壊れちゃったんだ」


自嘲的に笑うと、さらに自分が汚いモノのように思えて、苦しくなった。


「お母さんの幸せを奪ったのはあたし。だから、こんなあたしを……渚くんには…知られたくなかったな」


いや……本当に、知られたくなかったのかな?

知ってもらいたかった気もする…。

どちらにせよ、渚くんはもう……あたしの傍にはいてくれない。


「バイバイ、渚くん」

「なに言って……」


1歩後ずさるあたしに、渚くんは困惑したような顔をした。


「渚くんといられて、楽しかった」


そうだ、楽しかったんだ。

今まで生きてて、楽しいと思えた瞬間は、渚くん達と出会えたあの日から…。


そう言って、全速力で駆け出す。

渚くんは、あたしを追いかけては来なかった。