「はぁっ、はぁっ……ふぅ…」
あたしは、病院の前まで辿り着いて、そっと息を整える。
そして、ゆっくりと病院を見上げた。
「…………」
お母さん……。
さっきまでの楽しかった気持ちも、嬉しかった気持ちも消えていく。
今あるのは、胸の痛み。
これから、あたしはお母さんに、他人として会わなきゃいけない。
「お母さん……会いに来たよ」
あたしが病院を見上げていると、ジャリッとすぐ近くで砂を踏む音が聞こえた。
「ほのか……ちゃん?」
振り返る前に聞こえた声に、胸が嫌な音を立てる。
嘘、どうしてここに…。
あたしは振り返えれずに、前を見たまま動けない。
「どうして、渚くん……」
「ごめん、鍵、落としていったから…」
声で、渚くんが何かいいたそうにしているのが分かる。
やめて、お願い聞かないで。
あたしは、ゆっくりと振り返る。
差し出されている手には、あたしの家の鍵が握られていた。


