「ううん、何でもない」 あたしは首を左右に振り、そっとベッドから立ち上がる。 開いていた保健室の窓から、ふわりと春の風が入ってきた。 あたしの短い黒髪を優しく揺らす。 「やっぱり、ほのかちゃんは桜みたいだ」 「渚くん……?」 ボーッと窓の外を見つめていたせいで、渚くんの呟きに気づかなかった。 「ううん、そろそろ行こうか」 そう行って、渚くんは立ち上がり、あたしに手を差し出す。 「あ……うん」 離れた手が、もう一度繋がれる。 この手なら、信じても大丈夫……そう思えた。