「ほんのちょっとだけだよ。もう少しで1限目が終わる頃だ。それより、ひどい汗だね」
渚くんは、あたしに貸してくれた青い花柄のハンカチで額の汗を拭ってくれた。
「渚くん、名前を呼んでくれて……ありがとう」
でなきゃ、またあたしは自分が死にたくても死ねず、永遠と「生まれなきゃ良かった」と自分の存在を否定され続ける悪夢を見続けるところだった。
「ほのかちゃん……夢の中でも、俺の声が届くなら、何度だって呼びかけるよ」
渚くんは、あたしの手を握る。
優しすぎる渚くんに、あたしは何も話せない事が申し訳なかった。
ーキーンコーンカーンコーン
そして、1限目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
あたしは、ゆっくりと体を起こした。
それと同時に、渚くんの手が離れる。
「あ……」
「……?ほのかちゃん?」
あたしは、今何を言おうとしたんだろう。
手を離さないで、まだ触れていたい?
離れていく体温が少し寂しい?
どれも、今胸の中にある感情だった。


