「305号室……」


あたしはその病室の前で立ち止まる。


そして、そっと深呼吸をした。



『あんたが……悪いのよ?あんたじゃなくて、男の子が生まれれば、幸せになれたのに!!』


あの言葉が、頭にこびりついて離れない。


だから、いつもお母さんに会いに来る時は、怖くなる。


そして、その度に苦しむ事で、あたしは自分の罪をあがなっているのだと思う。


自分だけ、自分になるなんて…出来ない。


ーカラカラ…


「……お母さん、会いに来たよ」



あたしは、スクールバックの取ってをギュッとつかんでベッドに座るお母さんを見つめる。



「あのね、今日お父さんが来て、この子の事を可愛いって撫でてくれたの」


お母さんは、くまのぬいぐるみの頭を撫でながら、幸せそうに笑う。



「そうなんだ……良かったね、お母さん」


あたしは、お母さんの前に丸イスを置いて座る。


その目は、もう何も映していない。
たぶん、幸せな夢の中にお母さんはいるんだ。


「ねぇ、あなたはだあれ?」

「っ……」


何度も聞かれた言葉。


お母さんの中には、望まなかった娘の姿は映らない。


「あたしは……」


あなたの娘だよ……そう言えたらどんなにいいか。

でも、あたしはもうお母さんを傷つけたくない。