「俺、自分がほのかちゃんを傷つけてるんじゃないかって思ったら、怖くなった。だからあの時、逃げ出してごめん」
「渚くん……」
それは、あたしが渚くんを突き放した日の事だ。
「ごめん」、何度も謝って走り去った渚くんの事を思い出す。
「それは、あたしの方……。渚くんを傷つけているのはあたしだと思ったから、傍にいるのが怖くなったの」
あたしも渚くんも、同じだ。
傷つけたくないから、大切だと思うのに離れる。
どんなに好きで、想い合っていても……。
「俺たち、こんなにお互いの事考えてる…。どんな困難も、一緒に乗り越えていかないか?俺たちは、2人で1人だよ…」
「2人で、1人………」
あっ……。
そうか、東先生が言ってた事、こういう事だったんだ。
どちらが重いかじゃない、2人で1人だから、2人のモノなんだって。
「傍にいて、ずっと……俺は、それだけでいいんだ」
傍にいる。
ただそれだけで………あたしも、幸せだ。
見返りがない愛情って、こういう気持ちなのかもしれない。
「あたしも………渚くんの傍に……」
「随分、勝手な事してるなぁ、ほのか」
そう伝えようとして、あたしの言葉は、突然現れた誰かに遮られる。
「!!」
慌てて屋上の入り口を見ると、あの男……藤枝 孝がそこにはいた。
だけど、いつもの余裕そうな笑みは無く、あたしを睨み付けている。


