「まだ、私をそう呼んでくれるの…?」
お母さんは、あたしを悲しげに見上げていた。
ベッドに座ったまま、見上げてくるお母さんは、もうあのくまの人形を持っていない。
「あたしには……お母さんは1人しかいないっ…からっ…」
あたしは、ポロリと溢れる涙も拭わずに、お母さんを見つめた。
初めて、お母さんとちゃんと目が合った気がした。
お母さんはいつも自分の理想の夢の中にいて、あたしを見つめてくれる事はなかったから…。
「今でも思い出すの……あなたに、殺してもっ……良いって言われた事っ…」
「お母さんっ……」
涙を流すお母さんに、あたしまで胸が苦しくなった。
あたし達は、あまりにも傷つけ合いすぎた。
望んだ事じゃないって分かってても、もう戻れないって…諦めてた。
「私はっ……あなたを愛してる。なのにっ……孝さんに言われた事に動揺して、そんな大切な事を忘れてしまってたっ…」
「お母さん、藤枝 孝は、嘘をついたんだよ、あれは、お父さんが言った言葉じゃない」
あたしの言葉に、お母さんは頷く。
まるで、何もかも知っているかのようだった。
「私は……ただ、お父さんがいなくなってしまった事が悲しかった。だから、孝さんに依存する事でしか、自分を保てなかったの…」
お母さんは、自嘲的な笑みを浮かべ、近くにあるくまの人形を手に取る。


