「梨子……行ってきます」
「行ってらっしゃい、ほのか」
ーカラカラカラ
あたしは、梨子を振り返らずに、病室の扉を開ける。
中へ入る瞬間…。
「頑張って……っ」
梨子の声を、背中越しに聞いた気がした。
ーパタンッ
後ろで、扉の閉じる音がした。
そして、目の前には……。
「………ほのか……」
痩せ細った、お母さんの姿があった。
だけど、お母さんはちゃんとあたしが分かっているみたいで、あたしの名前を呼んだ。
「お母さん……」
分かっていると思ったから、由子さんとは呼ばなかった。
お母さんは、ついに思い出してしまった。
思い出さない方が、苦しまなくて済むのに…。
お母さんが傷つくなら、あたしはいなくなっても良いって思ったのに…。


