「お前達は俺から逃げられない、ハハハッ!また、会いに来るよ、ほのかちゃん」
そう言って、藤枝 孝は笑いながらその場を離れる。
あたしは、その場から動けなかった。
「大丈夫かい!?ごめんね、渚くん」
おばあちゃんは、慌てて渚くんの傷を見る。
Yシャツをめくると、10㎝程の切り傷がそこにはあった。
「すぐに病院に、ほのかちゃん、救急車……ほのかちゃん!!」
「…………」
おばあちゃんの声が聞こえる。
渚くんは、怪我をしている。
なのに、あたしが早く動かなきゃいけないのにっ…。
どうしてか、体が動かない。
頭が重くて、ぐわんぐわんと世界が回っていた。
「たいした傷じゃないです、おばあさん。それよりも、ほのかちゃん!!」
ボーッと虚空を見つめて動かないあたしの肩に、渚くんは手を置く。
そして、体を揺らしたり、声をかけたりしてくれる。
だけど、あたしの体はそれに相反するように、動かなくなり、意識が遠退いていった。
ーバタンッ
「ほのかちゃん……?ほのかちゃん!!」
すごい音がしたなと思ったら、あたしはすでにコンクリートの上に倒れていた。
しだいに、真っ暗になっていく世界。
もう、二度と目が覚めなければ良いのにと、そう思いながら、あたしは意識を手放した。


