「あんたさえいなければ……お父さんが帰ってくるのよ……ううっ……」
「っ!!」
渚くんに抑えられてるお母さんは、髪を振り乱し、身を乗り出すようにあたしを睨み付けている。
「おか………っ!」
とっさに伸ばした手を、あたしは力なく下ろす。
『男の子が出来たら、お父さん帰ってくるって言ったのよ!!だから、しょうがないのよ?』
『あんたが……悪いのよ?あんたじゃなくて、男の子が生まれれば、幸せになれたのに!!』
あの時、お母さんが、あたしの首を絞めて言った言葉が頭の中でグルグルと回る。
怒りよりも悲しみの方が大きくて、あたしは何も出来なかったのを思い出した。
「あたし……どうしたら良かったのかなっ…」
お母さんの為に、何をしてあげたらいいのか、何度も問いかけて、答えは今も見つからない。
『何でよっ……何でっ、抵抗しないのよ!!』
泣き叫ぶお母さんは、あたしを傷つける度に、あたし以上に傷ついた顔をする。
「どうしたら……お母さん、苦しまなくて済むっ…?」
ポタリと、涙が頬を伝って、床に落ちる。
『殺しても……いいよ……』
そう、あの時言った、あたしの本心。
お母さんも苦しんでるって知ってるからこそ、もう、お母さんが楽になれるなら、それでいいと思って言った言葉。
でも、それがきっかけなのか、お母さんはすべてを諦めたような瞳で、心を失ってしまった。


