ーカラカラカラ…。
「わぁ………綺麗」
あたしは、水を飲むのも忘れてウッドデッキに出た。
手すりに手をつき、山中湖を見つめる。
「月が……落ちてきたみたい」
静かな、夜風だけが作る波紋だからか、ここから見ると、湖は、シンと静まり返り、綺麗に月が映っていた。
まるで、空が下にもあるかのように錯覚する。
「こんなに、穏やかな気持ちになれたのはいつぶりだろう…」
あの男が現れてから、あたしは無我夢中で生きていたような気がする。
ただ、生きる為だけに息をする。
生きる為だけに心を殺す。
何も見ず、何も聞かず、生きる為だけに自分の周りに檻を築いて、閉じ籠った。
そうしなければ、あたしは生きていけなかったから。


