「ずっと……何も伝えられずにいたから……」


あたしは、自分の胸を両手で抑える。

まるで、胸のつかえがとれたかのような解放感。


「渚くんのおかげで、伝える勇気が出たよ」


それが、たとえ一生の別れでも、あたしには区切りが必要だったんだと思う。


「俺は、何もしてないよ……何も出来なかった。ただ、見てるだけ…」


そう言って切なそうにあたしを見つめる渚くんに、あたしはまた首をフルフルと横に振る。


「あの時、思いを伝えて無かったら……お母さんがあたしを呼ぶことは二度となかったかもしれない」


ずっと願っていた事が、1つだけ叶った。

これ以上は、もう十分だよ…。


「今日の事、絶対に忘れない…ありがとう、渚くんっ…」


ポロポロと泣くあたしの頬に、渚くんは手を伸ばす。

そして、そっと涙を拭ってくれる。