恋色風船

「林様、お待ちしておりました」

黒服に、奥の個室に案内される。

広いフロアを通りすぎるとき、客の一人に、テレビでときおり見る評論家の顔があった。


「この店は、メニューを置いてないんだ」

テーブルにつくと、林が説明した。
ということは、値段という無粋なものも、女の目に触れられない。


まもなく、食材を載せたワゴンがしずしずと運ばれてきた。
並べられた、肉、野菜、魚の彩りの鮮やかさ、形の見事さに、麻衣はちいさく歓声をあげた。


「好きな食材を選べるんだ。調理法も好みどおりシェフが作ってくれる。
僕はいつもおまかせしちゃってるけどね、外れがないから」