恋色風船

「このワンピースの麻衣ちゃんを見たのは、俺が最初か」

「です」

「一番乗りだ」

まつ毛が長い男だ。
女と違って、ビューラーで上にはね上げられることのないそれは、ただ目元に甘く重い影をつくる。


企業ビルディングの受付をしている麻衣に、来客としてときおり訪れる林が、名刺を渡してきたのは二週間ほど前だ。


地上30階の高さに位置するその場所には、選ばれた種類の人間しか上がってこられない。