色を失ったこの世界は本当に私を必要としているのかな。

ショットバーを飛び出してからここまで自分がどうやってたどり着いたかわからなかった。


ただ、気付けばもう二度と来てはいけない拓海さんのマンションの前に佇む自分。

結構距離あったはずなのに。

どこか冷静な自分が自分を蔑むように嘲笑う。


知られたくないものほど簡単に知られてしまう。
失いたくないものほど簡単に失ってしまう。


初めてわかった。
これで、また一つお利口になったよね自分。

あれだけ出ていた涙も今は蛇口を閉めた後みたいに一滴だって出てこない。
何より大切な人を失ったはずなのに、涙も出ないなんて自分がおかしくてたまらないんだ。



空を見上げれば、都会の空に似つかわしくないくらいに輝く星空が見える。

地元にいれば星空なんて珍しくもなくて見ようともしなかった。

でも今は、少しでも星空に慰めてほしかった。



閑静な住宅街にある高級マンションのエントランスの脇に座る私はまるで捨て猫みたいに情けないんだろうな。


星空も街灯も、なにもかもがモノクロに見えて私は目を逸らして小さく息を吐いた。