コソコソと悪口らしき言葉を囁く人のいる中、私は吉野さんの目の前に立たされる。
「じゃあ、白雪さん。
今からこのトランプを、白雪さんの望むところに飛ばすから、どこに飛ばしてほしいか選んでくれる?」
私が悪口を囁かれていることなんて知らない吉野さんは、すまし顔でそう言う。
こういうの、みんなならどこを選ぶんだろう。
少しは気を遣って飛ばしやすい場所を選ぶのだろうか。
…一回くらい、失敗しちゃえ。
嫉妬なんて醜いって分かっているけれど、そんな思いで視線を這わす。
そうして見つけたのは、下手にいれれば絶対に気付く場所。
「じゃあ、ここで」
胸ポケットを選んだ。
思いやりのおの字もない選択場所に、周りの視線は冷たくなるばかりで。
だけど吉野さんは、
「了解!」
元気よくそう言うと、持っているトランプを見せてきた。
ハートのクイーンのトランプ。
表や裏の絵をじっくりながめてだいたい記憶する。


