それらの試練を乗り越えた夢羽の微笑みと穏やかな性格は、誰もをホッとさせる力があった。


留衣も、それに魅せられた1人なのかもしれなかった。


そう思うと、あたしは自分の胸はハチに刺されたようにチクリと痛むのを感じた。


あたしの家はごく平凡な家庭で、良くも悪くもない。


その中で特別不便さを感じる事もなく育ってきたあたしは、きっと夢羽よりも子供っぽい性格をしているだろう。


自分でそれがわかっているからこそ、夢羽には勝てないという自覚もあった。


裏でゾンビを解体しているような喫茶店でバイトをしているあたしを、留衣が見てくれるわけがないと。


「ごちそうさま、おいしかったよ」


留衣が立ちあがり、財布を取り出す。


「ここはあたしが払うから」


夢羽がそう言って、留衣より先にお金をカウンターへ置いた。


留衣は複雑そうな表情をしていたが、あたしはそれを見て見ぬふりをしてお金を受け取り、お釣りを渡した。


「また来てね」


最後に笑顔になり、2人に手を振る。


2人はこれからどこへ行くのだろう?


外はもう真っ暗だ。


島のお店はほとんど閉店時間だし、きっともう帰るんだろう。


あたしは外へ出て2人の姿を見送ってから、そっと溜息を吐きだしたのだった。