その時だった。


「やぁ、来てたのか」


寝起きのような声が聞こえてきて、あたしはドアから手を離した。


河田さんが寝癖のついた髪をクシャクシャとかきまわし、大あくびをしている。


「昨日大変そうだったので、気になって様子を見に来ました」


「そうか……ありがとう」


寝ぼけ眼でほほ笑む河田さんに、ドキッとする。


解体なんて妙な仕事をしていなければ、あたしはきっと河田さんに恋をしていただろう。


「今日、お店どうしますか? 開けるならあたしバイトに入りますけど」


「あぁ……そうか。もうそんな時間か」


河田さんは人骨の時計を見て目を丸くした。


今日は1度もここから起き上がっていないのかもしれない。


よく見ると髭が伸びてきて青くなっているし、とても『ロマン』でコーヒーを作れる状態ではないだろう。


あたしはクスッと笑って「バイト入りますね?」と、聞いた。


「うん。ありがとう」


河田さんは少し恥ずかしそうにそう言ったのだった。