「河田さんって、高校卒業と同時にここの店長になったんでしたっけ?」


「あぁ。最初は両親が経営していたけれど、俺の卒業間近に2人とも事故で死んじまって。俺が続けなきゃ『ロマン』が廃墟になる所だったんだ」


「そうだったんだ」


踏み込んではいけない話題に踏み込んでしまったかと一瞬焦ったが、河田さんは表情を変えずには足を続けた。


「俺が最初にここで解体の仕事をしたのは、親父が相手だった」


「魂が抜けていなかったんですか?」


「あぁ。家族旅行の帰りに突然の事故死だったからなぁ。魂が体から抜けるタイミングもなかったんだろう」


河田さんは昔を懐かしむように目を細めた。


でも、自分のお父さんの体を解体するなんて、想像しただけでも胸が痛む。


「河田さんは……その時、大丈夫だったんですか?」


質問していいのかどうかわからず、あたしはつかみどころのない質問を投げかけた。


「俺? あぁ。解体中はずっと親父が話かけてくれていたから大丈夫だったよ。解体の仕方も、親父が全部説明してくれてた。事故の怪我も俺だけ大した事なかったしね」


「……すごいですね」


自分の体が解体されていく最中にも河田さんに話しかける。


その行為にあたしは目を見開いた。


「だろ? その時俺はこの『ロマン』を継ぐって決めたんだ」


「ゾンビたちにとって、ここは最後の救いの場ですよね」


「そうだなぁ。あるいは、俺はゾンビたちにとって死神なのかもしれないよな」


河田さんは冗談めかしてそう言い、笑ったのだった。