コーヒー豆発注してください。


と言うのはお邪魔のようで、あたしはそのまま部屋から店内へと戻ったのだった。


狭い店内へ戻りコーヒー豆の補充を終えると、ちょうど『ロマン』の開店時間になっていた。


あたしは店の入り口の鍵を開け、営業中という立て看板を表に出した。


入口のドアを開けた瞬間、ゾクリとする冷気があたしの体を包み込む。


店の裏手の方へ視線を向けると、そこにはすでに沢山の『お客様』が並んでいるのが見えた。


あたしは腐敗が進んできている『お客様』たちに1つお辞儀をして、店内へと戻った。


つい先ほどセット下コーヒーメーカーが小さく音を立てている。


この『ロマン』の『お客様』は生きている人間ばかりじゃない。


未だに死んだ人間の埋葬が行われていたこの街では魂が体に残り、死ぬに死ねない人たちが沢山いる。


今日見た映画のゾンビそのものだ。


そんな状態になった彼らはこの『ロマン』を訪れ、そして裏口からさっきの部屋に通される。


ベッドに寝かされ、河田さんに腐敗が始まった体を切り刻まれた時、ようやくゾンビたちは魂が解放されて死ぬ事ができるのだ。


『ロマン』は今日も『お客様』で大賑わいだ。


あたしは誰も1人カウンターに座り、自分でコーヒーを入れてホッと一息ついたのだった。