交差点に差し掛かったところで、井上さんが立ち止まった。


「ここだ」

と案内されたのは、白い大理石と、ぴっかっぴかの窓ガラスを組み合わせた高級店。

何の高級店だか分からないけど、入り口のところに警備員さんがいるし、厳かな門構えで重々しい、入りがたい雰囲気。

レストランではなさそう。


「ここなの?」気軽に言ったけど、気後れなんてもんじゃない。入ったら捕まえられるんじゃないかってビクビクする。

「ここだよ。さあ、入って」
入ってって言われても。

いいんですか?

私なんかが入ってしまって。って警備員さんに聞きたくなる。


室内に売られているものを見ると、何を売ってる店かすぐにわかった。


ジュエリーショップ。

しかも、かなり高級な。
眼力のない私にだって、ケースから輝いて見える光が違うってことくらいわかる。


店には、客がいない。開店したばかりだからかな。


受付で、

「こちらにお名前とご連絡先などをお書きください」と言われた。


お店の人が、私たちのところに来て「いらっしゃいませ。どうぞ」と丁寧に挨拶にした。


店の高級感あふれる雰囲気と、重要人物のように店の人に扱われて、ただひやかしで来てしまっていいのだろうかと、不安になる。


「えっと、あの……」本当にここにいても大丈夫ですか?って聞きたくなる。


「気に入ったのがあれば、見せてもらえばいい」
なに言ってるんですか?
お店の人買ってくれる、見込み客だって思っちゃうでしょう?

「ちょっと、どういうつもり?」
小さな声で言う。


井上さんは、ほら、早く行ってと私の背中を押す。


店の人にお先にどうぞと促されて、なぜか私が先に歩く形になった。


でも、私、いったい何してるの?ここで。