「好きになんかさせるか。他の男には、触れさせない。ほら、解決した。これでいいじゃないか。御曹司にだって、相談に乗るくらいできるぞ」そんな自慢げに言われても。


「いいえ、あなたは逆でしょう?相談を受けるんじゃなくて、あなたが問題が起こして、相手を泣かせる方です」


「上等じゃないか。相談に乗るだけのいい人なんか面白くない。こっち見ろよ」


「嫌です」


「嫌だじゃない。二次会の協力しないぞ」

強い口調に驚いた。
本気で怒ったのだろうか。


私は近づいて、彼の額に軽くキスをした。


「花澄?それはキスとは言わない。そんなんじゃ、俺は協力しないよ」


「待って」

どうしても、納得しないつもりだ。

キスくらい。何ともない。


私は、一呼吸おいた。



竜也のことが頭をかすめた。


私は、腕を彼の首に回し、恋人がするようにキスをした。


竜也にしたようなキス。

もう、二度とできないキス……


「もういい。止めろよ。花澄?もういい。分かったから。ごめん。やっぱり俺は、君の事、困らせたみたいだな……」

頬を涙が伝って、井上さんの顔まで濡れてしまった。


「そんなに声を殺して泣くな」

井上さんの指が、私の頬に落ちた涙をすくい、唇に軽く触れた。



喉元の指が下に降りて、胸の辺りピッタリ心臓の上で止まった。



「どうしたら手に入れられる?君のここは?」


彼の体がすっと離れた。


「同期のことは、何とかする。ただし、もう一つ条件がある」


「条件?」


「さよならなんて認めない。週末。土日とも俺に付き合って。それで、ダメなら諦める」


彼は、そういうと振り返らずに出ていった。