ふーってなんか聞こえた。
なに?ため息?
私の?うそ。
いつの間にため息なんかついてたっけ?
いえ、私じゃないって。心のため息?違う。じゃあなに?
隣だ。Mr不機嫌君。
きちっと締めていたネクタイを、きれいな長い指で緩めてる。
彼の指が夜のベッドでの姿を連想させて、ドキッとする。
「今日は、顔合わせってことだから、よかったら二人で食事してってよ。俺たちは、この後用があるから。これで失礼するよ」竜也が申し訳なさそうに言う。
「ああ、わかった」
井上氏は起き上がって、さっさと行けとばかりに力なく手を振ると、相手が見えなくなったと同時に、革張りの椅子に深々と座り直した。
「やってらんねえ」
「ん、まあそうね」
彼の涼しげな眼が、こっちを向く。


