例のごとく、口は悪いけど態度は優しい。
そっと支えてくれるし、苦しそうだと背中をさすってくれた。
気持ち悪くて目が回りそうだけど、ふら付くとちゃんと体を支えてくれる。
「こら、歩け!」心地よいバリトーンの声。
クラブの鬼コーチみたいだ。
本当に生徒のことを考えてるのか、どんくさい人間を見ると、いびりたくなる性分なのかは不明だけど。
「本当にいい声ね、あなたって」
「お前、ふざけてないでちゃんと歩け」
ふざけてるんじゃなくて、私、酔ってるだけなんですけど。
タクシーから降りて、目の前のマンションに入った。
大理石みたいピカピカに光った床が、滑って歩きにくい。
ここどこ?ホテル?
受付の人いるし。
ほら、受付の人に井上さん大丈夫ですかって聞かれてる。
「大丈夫だよな?一人でこんなに酔って。早く歩け」
「無理……」
歩けないのは、床のせいじゃなくて自分の足が動かないせいだ。
ぐわんと体が揺れた。
何?どうした?
「仕方ないな。ちゃんとつかまれ」
力強い腕が伸びて来て、腰を支えられ、体が密着する。
ちょっと何するの。
酔いが回ってる上に、一気に心拍数が上がって頭がくらくらっとなる。
彼の手がお腹に食い込んで、しっかりと支えてくれる。
口は悪いんだけど扱いは丁寧で優しい。
「腕回して、ちゃんとつかまってろ」
「ん、ありがとう」
ふわふわとしたいい気持。いい匂い。
私は、言われた通りに腕を巻き付ける。
竜也のバカ……
竜也に、待ち受けの写真なんか見せられなきゃ、ここまで酔わなかったのに。