「君は?どうしたら笑うんだ?」
いたって真面目に質問する井上さん。
「どうしたらって、楽しければ笑いますよ」
んん……確かに素晴らしいけど、ここって式場から遠くない?
二次会だけの人はいいけれど、式から来る人は、大移動になっちゃうけど。
「どういうのが楽しい」
「どういうのが楽しいって、言われても」
私は、パンフレットに具体的な印象を書き込んでいるところだった。
質問の内容って、なんだっけ?
「どういうのがって言われても、急には出てきません」
「何か欲しいものは?何かもらったりすると喜ぶだろ?」
驚いたことに、彼は、私が書き込んでる内容をのぞき込むようにして、身を乗り出している。
「ええっ?」
顔をあげると、ぶつかりそうになるほど近くに彼の顔がある。
「指輪とかバッグとか、そういうものもらうと嬉しいのか?」
私は、少し後ろに下がる。
やっぱり、冗談じゃないみたい。
真面目に話してる。
例のごとく自信満々の顔だけど。
ここは、要らないってはっきり言った方がいいかな。
でも、ハッキリ言い過ぎて、突っぱねられたみたいに取られて、刺激しない方がよさそう。
「いただくのは嬉しいですよ。プレゼントしてくれた方が、どんな気持ちで選んでくれたのか、想像するのは楽しいですから」
「そうか。よかった」
ほっと一息つく、彼。
よかったと言って、くしゃっと自然に笑う顔、初めて見たかも。
無防備だったから、ドキドキしちゃった。
ずっと、彼のこと見ないようにしてたのに。
そんなふうに笑われると、ひどく混乱して気持ちが落ち着かない。
最初に会った時のように、彼に触れられた場所が記憶からよみがえって来る。
今度は、どうしたの?
笑ってると思ってたら、今度は、厳しい目つきになってる。
目の前にいる私の体を頭から順に視線を向けてる。
念入りに観察するような目で。
見られてると思うと、恥ずかしいから、目をそらす。
「君は、いろいろ揃えた方がよさそうだね。バッグも靴も洋服も、もっと似合うものを身につけるといい。なんだったら……」
「井上さん?」
何を言い出すのかと思ったら……
「ああ、何だ?」
もうダメだ。黙っていられない。
「えっと、あの……私は、あなたにそうして頂く理由はありません。あなたは、同じ会社で働く同僚です。それほど親しくない人から、高価な物をもらっても困ってしまいます」
「君は?プレゼントは嫌いなのか?」
まるで、そんな女性は、この地球上にいないなんて顔してる。
「ですから……」
「わかった。高価じゃなきゃいいのか」


