店を出て、私たちは、ほろ酔い気分で街を歩きだした。
どちらかが言い出したわけじゃないけれど、駅に向かって歩き出す。
「まだ、帰るには早いだろう?付き合えよ」
並んで歩くのは気が引けるので、少し彼より遅れて歩く。
「はい……」
あくびを噛み殺しながら言う。
いろんなことがあって、肉体的にも精神的にも限界だった。
おまけに、井上さんを前にすると、
ずっと見られてるっていうだけで緊張する。
彼が、急に振り返って言う。
「どこか行きたいところはあるか?」
だから、いきなり振り返ったりすると、
心臓が止まりそうになるんだって。
「どこでもいいぞ」井上さんが催促する。
正直に言っていいのかな?
というか、もうだめ。本当に眠い。
それに、足がむくんでる気がする。
どこか行ってもいい場所と聞かれても、自宅って答えちゃう。
「家に帰って眠りたいです」
井上さんは、立ち止まって言う。
「家っていうのは、君の家か?」
立ち止まって考えながら言う。
言っとくけど、この人は、大真面目だ。
「帰るって家しかないでしょう?」
当たり前じゃないの。
「じゃあ、そこへ行こう」
そこへ行こう?
私の家について来るってこと?
家まで、ついてくるの?
どうして?何が起こったの?
目が点になる私。
「行こうって。あなたも来るのよね?」
な、何で?家についてきて、何しようとしてるの。
何?何がどうなったの?
えええっ。
何でうちに来るなんて、言い出したのよ?
「部屋に行ったら、まずいか?」
彼、見事に真剣だ。
真面目な顔して言うから、ふざける訳には行かない。
「まずくはないですが、なんでですか?」
ちょっと、お願い。ちょっと待って。
考えるから一分間ください。
「君が眠いっていうから。寝かせてあげようと思って」
う~ん。
こういう場合なんて言ったらいいの?
「ええっと、ああそっか、暗いから送ってくれるって意味ですね?それなら、大丈夫です。今日は一人で帰れます。時間が早いから全然大丈夫よ。電車動いてるし」
私は、時計を見て確認する。
彼が、私の前に立ってゆく手を阻んだ。
「ダメだ。帰さない。一人で部屋に帰ったって、君は、部屋で何もすることないだろう?」
ちょっと待ってよ。そんなこと、大きなお世話じゃないの。
「そりゃねえ、私だって、家に帰って優しい彼の一人や二人が帰りを待っててくれれば、こんなとこに来ませんってば」
何もすることないですって!!
ひどい、言いようね。
確かに、家に帰っても一人だし。することもこれと言ってないけど。
それって、どうだっていいじゃないの。
井上さんの知ったことじゃないでしょ?
悪かったわね。放っておいてよ。
「今日は、家に誰も待ってないから、俺の誘いに応じたのか?」
「違いますって」
「誰もいないんだったら、俺が洗濯機くらい見てやってもいいだろう」
ん?何か。
私、この人に好き放題、言われてない?
からかわれてるの?
「大きなお世話でしょう?私が何をしようが、何を考えようが。あなたの許可を取る必要ないもの」


