サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~

私は、目の前のイラついてる男になるべく穏やかに言う。

「ねえ、井上さん?楽しくないのは、あなたの方じゃないの?」

「違うって。俺は楽しいと思ってる。正直こうして君といられれば、何だっていいんだ」

「その割には楽しくなさそうね。私、注文したもの残すの嫌だから包んでもらって、ここを出ましょうか?」

「君は、そうしたいのか?」

「私、楽しくないなんて一言も言ってないよ。気にしてるのは、井上さんの方でしょう?
えっと、井上さん、今日はどうして私を呼んだの?
冴えない、私のような女が横にいるの、恥ずかしい?
二人でいるところを、見られたくないっていう人でもいた?
私、こういう店って来たことないから、気がつかないうちに、何か失礼なマネでもした?
もし、そうならこういうことに慣れてる人と来てください」


彼は、ブルッと頭をふった。

「だから違うんだって。俺は、さっきから楽しいのかって君に聞いてるだけだ。君は何もマナーに反することなどしてない」

「そう」

「たのむから、君にそういう顔されると、俺どうしていいのか分からない」



彼は、気分を変えるようにその話は、もうやめようという。


「君は?普段、休みの時何して過ごすの?」


確かに全然違うことを聞いて来た。

むっつりとして不機嫌そうなのは直らないけど。

腕組みして、何か考えてるみたいだし。


「普通に、洗濯と掃除です」

私は、よく考えた割には、何でもない答えだ。
普段してないことなんて、答えられない。


井上さん、やっぱり苛ついてる。
楽しくないのは、自分の方じゃないの?

何か変な答え方したのかな。

上品な空間。女性はみんな着飾って、髪だってきれいにセットされてる。
ここに来る前に、美容院にでも行ったのかな。

周りの連れの女性を見ると、みんな上品に着飾ってた。

それでかな。

急に言われたから、おめかししてないし、思いきり通勤服だし。
見劣りしてるって思われたかな。

それなら、連れてくる前に分かりそうなのに。

他にも、ダメな理由だったらいくらでも思いつく。
服装でも敵わないし、教養だってない。


なんだろう?あまりにも、潤いがない?
もっと自己啓発して、努力しろ?

そんな風に思われるくらいなら、来なければよかった。



「他には?」

「他には?って言われても、それ以外の日常の家事。食事作って買い物に行けばそれで終わるもの」上の空で答える。

本当言うと、疲れて寝てる事が多い。

確かに。私って潤いがないな。
買い物って言ってもスリッパひっかけて近所に買い物じゃ、枯れてるみたい。

枯れてる女じゃ、連れて歩く価値ないもんね。

それなら、別の女性誘えばいいのに。

私なんかじゃなく。
菜々ちゃんみたいな、そこにいればパッと明るくなる女性。

お願いだから、私に出来ないことを要求しないで。




「そ、そんなに大変なら、手伝いに行ってやろうか?」

何ですって?

「はい?手伝いって?」

何?今の空耳?



「そんなに驚く事か?」
彼は、どうやら大真面目だ。

いったいどうなってるの?
あなたは、私のことが不満で、役不足だって思ってるんじゃないの?

「えっと、はい……」
やっぱり、私井上さんになんかした?

何が言いたいの?
さっぱり分からないんですが……



「本当に何も困ってないか?」

彼は、本気で話してる。

地方に大事な娘を下宿させてる、父親のように。

困ってること?

困ってると言えば、このくらい。


「ちょっと、洗濯機の調子が悪いからコツがいるんですけど。そのくらいです」


「やっぱり、見に行こう」
今にも立ち上がりそうな、勢いの井上さん。

ちょ、ちょっと待って家に洗濯機見に来るつもりなの?

本当にどういうこと?


「井上さんって、機械わかるんですか?」
本当、どう受け止めていいのか分からないのですが。


「俺にわかるわけがないだろ。洗濯機は電気屋に売ってるんだろう。買いに行けばいい」
私、もうお手上げです。

「買に行くって。今すぐですか?まさか。後、一年は大丈夫です。だましだまし使います」
おかしくって、笑ってしまう。
だって、あなた真剣なんだもの。


「だまし?だまして洗濯機を使うの?」
目が大きくなる。もうだめ。声に出して笑ってしまう。


「違います。使えるようにちょっと揺らしてみるとか、そなことです。くだらないでしょ?」
真剣に言うから、吹き出しちゃった。


「そんなことないさ。笑ってる君といるのは楽しい」