「女性ならきっと、そう思うわね」


私も、彼の雰囲気に飲まれないように、愛想よく笑って抵抗を試みる。


「いや。ここに連れてきたのは、女性だけじゃないって」
今度は、笑わずに真面目に答えてる。

びっくりするほど、真剣な顔。

「そんなに、一生懸命否定しなくても。誰も責めてませんって。
こんなに素敵な夜が過ごせるなら、相手の女の子にもいい経験になるもの」

「いや、だから俺、こういうところに女の子連れて来て、口説いたりしてないから」

真面目な顔の井上さん。そっちの方が自然に見えるね。
本来の人柄は、こうなんだろうな。

いつもみたいに、自信たっぷりな態度じゃなくて、素直な飾らない顔もするんだなと意外に感じた。


でも、そういうのは特別な女性に取っておくべきでしょ?

安売りしたら価値がなくなるもの。

私は、笑って言う。
「井上さんが誰と来たかなんて、気にしてないから。会社で話したりしませんから」

「だから、違うって」
彼もムキなってる。


「でも、いつか好きな人とこうして、言葉もなく景色を見つめてるのもいいな。素敵でしょうね。
それより、本題に入りましょう。ここが井上さんお勧めの二次会会場の候補なんだよね?」
さあ、うっとりする時間は終わりだ。楽しんでばかりはいられない。ごちそうになった分、ちゃんと働かなきゃ

『二次会の下見、付き合え』ってメールに書いてあったから、ちゃんと役目を果たしたい。

「ああ……」

井上さんは、少し違うなって顔してる。

「人数的にもレストランの格としても申し分ない。シェフの腕も十分だから、お偉方から文句の出ることもないと思う」


そうでしょうね。
細かいところにまで気を使っている店は、目につくところを手を抜くことはない。