「慌てて予約した割には、なかなかいい席だろう?」

「はい」

本当ね。もしかしたら、急に思いついて予約したんじゃないかもしれないけど。


会員制の店なんて、滅多に入れないだろうから、慌ててドタキャンした久美子に、いいお土産話ができてよかった。


でも、確かに素晴らしい。

店のどこを見ても、細かな細工や演出があって面白い。

勧められるだけあっていい店です。


「素敵。他に言葉が出てこない」


こんな、贅沢なシュチュエーションで、おもてなしされたら、たいていの女の子は雰囲気に圧倒されちゃうな。
何でも、YESって言っちゃいそう。


「だろ?初めてくると、たいていそうやってうっとりする」


自信たっぷりに言ってるけど、何人うっとりさせたら、そんなに自信が持てるのか、聞いてみたいわ。


そうやって、ふっと罪もなく笑うと、薄い唇がゆるむ。

井上さんは、内緒話をするように不意に顔を近づけ、耳打ちするように言う。


さすが、扱い慣れてる。

自分がやることが、どれだけ効果を生むのか分かってるんだろうな。


こんなに格好良くで、動きもスマートだからどんな服装だって、どんなシュチュエーションだって魅力的なのに。

こんな演出までされたら、普通の女性はすぐにまいっちゃう。

相手を、必要以上に素晴らしく見せる理想的なパターンだ。

舞い上がらないように、ちゃんと覚えておこう。


私が考えてることなんか、お見通しなんだろうけど。

「気に入ったか?」

ぼんやり夜景を見てるすきを狙って、その低音ボイスで体の芯をぞくっとさせる。

「はい」

だから、井上さん、私にまで女性を口説くみたいに、ずっと見つめなくていいですから。