彼は、タクシーをそのまま待たせて、部屋まで送ると言ってついてきた。
「いいってば」
今、顔は好みじゃないって言ったでしょ?
それとも、酔ってたら、相手の顔なんてどうでもよくなるタイプ?
住んでるところは、一応マンションという名はついてるけど、ボロいビルだしあまり見栄えはしない。
OLの給料でやってるんだから仕方ないけど。
「建物の中も、ちょっと暗いね。ドアのとこまで行く」
と井上さんが、建物の入口の所で言う。
酔って口は悪いけど、一応、対応はちゃんとしてる。
「大丈夫、本当にいいってば」
私は、彼をタクシーの所に戻そうと背中を押す。
「エレベーターある?」
例の如く、人の話を聞いていない。
「そこに、あります」
サッとエレベータに乗り込む井上さん。
「そっか、何階?」
「3階です」
さっと、フロアに降りて部屋の前に立つ。
「じゃあ、ここで」
扉の前で、私は手を振った。
「ちょっと待って。じっとしてて」
急に彼が近づいてきた。
ふわっと彼の匂いに包まれる。
「うわっ何?」
私は、ドアと彼に挟まれて、身動きが出来ない。
優しく頭を撫でられて、両手で顔を包まれた。
「何してるの?」
「よく眠れるおまじない。目を閉じて」
「ん?」
「素直でいい子だね」
両手で頬を撫でられて、じっと見つめられる。こつんと額と額をくっつけられた。
可愛いおまじないだねと言おうと思った。
「んじゃ、ここまで運んでやったご褒美もらうか」
ぐいっと顎を上に向けられ、気が付いたらキスされていた。
何?何が起こったの?
いきなり彼に口を開けられ、舌を絡ませてくる。
何も考えられなくなった。
気が遠くなりそうになる。
「いやっ……」
腕が少し緩んだすきに、手で彼の胸を押して抵抗した。
「な、なんてことするんですか?」
彼は、悪びれずにいう。
「ほらみろ、何もできないだろ?5分あれば、このままベッドまで連れ込める。ちょろいな」
「何てこと、い、いううんですか」
好みの顔じゃないのに、何でキスなんかするのよ。
「男に、あんまり気を許すなよ。でも、今日は、これでよく眠れるだろ?」
じゃあな。そう言って彼は、去って行った。
何だ?何が起こったの?
確かに、彼の言う通りその、不可解な行動を考えていたら、いつの間にか眠りについていた。


