どっちに行けばいい?と聞かれてとっくに頭が思考停止している私は、仕方なくバッグの中からスマホを取り出して渡した。
井上さんは、
「ついでだから、連絡先交換しといた」と涼しい顔して操作している。
何気なくスマホをいじっている指が、すぐ近くにある。
どうにもわからない。
この人だって、相当飲んでたはずなのに。なんで平気なの?
「お酒、相当強いんだね」
「俺が強いって言うより、甘いからってあんな強い酒、たくさん飲み過ぎたからだろ。相手が俺でよかったな。あんなんじゃ、お持ち帰りして欲しいのかと思われても仕方ないぞ。実際お持ち帰りされてるし。今日は俺、どこにもそんな気力ないけど」
「なに言ってんの。お持ち帰り?そんな、そこまで酔ってないって」
彼が慣れた手つきでネクタイを緩めた。
シャツの首元からチラッと見える鎖骨に目が行ってしまう。
彼の指がすっと伸びてきて、私の頬を捉える。
どこ見てるんだ?っていう目で、彼が私のことを見る。
彼は、私の顔をあの指で、ぐいっと引き寄せる。
急にそんなこと止めてください。
心臓止まります。
「何だったら、今から家に、持ちかえってやろうか?その気だったら、一晩、相手してやってもいいけどな」
はあっと、熱い息がかかり、微かにお酒の匂いがした。
キスされるのかと思って、顔をそらしたら、両手でぎゅっとつかまれた。
「んん~どれ、顔見せて見?んん、やっぱ、今イチだな顔は。あんまり好みとは言えないけど。顔以外は、いいな。いい体してる。このままうち来るか?」
彼の視線が、舐めるように下に向かい、遠慮なく私の胸に留まったままでいる。
「遠慮します」
この人は、酔うと本音が出るタイプだ。
まあ、私の印象も、似たようなもんだ。顔と体と声、外見以外は最低だ。
「まあ、今日のところは、疲れたし気力もない」
するっと私の頬から、彼の指が離れた。
「それは、よかったです」
車は、20分くらいで私の家に着いた。


