「真裕さんこそ、本当に私でいいの?」

彼は、私の口から、そんなこと聞かれる日が来るなんてと笑った。


「家族にいわせると俺は、君のこと以外でこんなに必死なったことないらしい。がんばって何かを得ようとか、誰かをつなぎ止めようとしたことがないって責められた」

彼の人柄は誠実そのもの。
この人は、ずっと思ったことをそのまま口にしてきたのだ。

菜々さんのことを隠すためのものじゃなく、本当に私のこと思っててくれたんだ。


それが、彼の人目を引く派手な外見に目がくらんで、私は何も見えていなかった。

私のどこを、どんなふうに気に入ってくれたのか分からないけど。

今は、彼の言葉、彼の気持ちを信じることができる。




メールの着信音がして、真裕が携帯の画面を見る。


「久美子が、花澄のバッグを回収して、手元にあるって」


「よかった」


真裕が、文字を打ち込んで返信してる。

自然に笑みがこぼれて、何かつぶやいている。

「どうかしたの?」

彼は、久美子に向かってなのか「そりゃよかったな」とつぶやく。


「久美子なんだって?」彼の携帯をのぞき込もうとして、彼に近づく。
『やっと陥落した』と文字が見える。


「なに、陥落って?」

彼が楽しそうに、場面をスクロールする。

「やっと、久美子の好きな彼が、片思いの彼女をあきらめて、失恋してしてくれたって喜んでる」


「なんのこと?」

彼は、驚いたように、顔を上げて私を見つめる。


「気が付かなかった?久美子、青木狙いだったの」


「ええっ?」


「さすが鈍いな」
嬉しそうに、私にいう。


「だって、久美子、青木君の味方してたから……」


「人はね、背中を押した方向に進むとは限らないんだよ、お嬢さん」


「久美子と二人で、私に何かしたでしょう?」


「まあね。もし、見破ったら白状してやるよ。そんなことより、向こうへ行こう。夜景はもう、十分楽しんだだろう?」

あなたが、どんなに大切な人なのか、これから何度も話してあげよう。
今度その役目をするのは、私の方だよね。




【END】